猟友会という既得権益のループ図。鳥獣被害対策の委託と担い手の高齢化
鹿やイノシシの被害対策で、自治体は猟友会への委託に大きく依存してきました。担い手の高齢化が進む一方、若手や新しい団体の参入は随意契約の慣行に阻まれています。

猟友会という既得権益とは何か

鹿・イノシシ・サルといった野生鳥獣による農作物被害は、年間数百億円規模に達すると推計されており、日本の農業にとって深刻な課題となっている。 この鳥獣被害対策の実務を、長年にわたって担ってきたのが、都道府県・市町村ごとに組織される猟友会(全国組織としての大日本猟友会を頂点とする)である。

猟友会は、狩猟免許を持つハンターの任意団体であり、その活動自体は、地域の野生動物管理に大きく貢献してきた。 しかし、自治体からの鳥獣被害対策事業の委託が、実質的に地元猟友会との随意契約に偏り続けてきた構造、そして担い手の高齢化が進む中で新規参入者が阻まれ続けている実態は、本サイトが検証してきた他の既得権益構造と共通する課題を抱えている。 本記事では、鳥獣被害対策事業の委託構造、高齢化と新規参入の壁、そして海外の野生動物管理システムとの比較を通じて、この構造を検証していく。

本記事の目的は、猟友会という組織や、そこに所属する個々のハンターを批判することではない。 多くの猟友会会員は、地域社会への貢献意識のもと、決して十分とは言えない対価で、危険を伴う捕獲活動に従事し続けてきた。 問題とすべきは、こうした献身的な活動を支える制度設計が、結果として新規参入・担い手の多様化を阻害する構造になってしまっている点であり、この構造的な課題にこそ、正面から向き合う必要がある。

鳥獣被害対策事業の委託構造の歴史

1963年
鳥獣保護法(現鳥獣保護管理法)制定

野生鳥獣の保護と狩猟の適正化を目的とした法制度が整備され、狩猟免許制度・猟友会の位置づけが確立していく。

2000年代
鳥獣被害の深刻化と自治体の対応

鹿・イノシシの急速な生息域拡大とともに、農作物被害が全国的に深刻化し、多くの自治体が猟友会への被害対策業務委託を本格化させる。

2007年
鳥獣被害防止特措法制定

市町村による鳥獣被害対策実施隊の設置が制度化され、猟友会会員が実施隊員として活動する仕組みが全国に広がっていく。

現代
担い手の高齢化と新規参入の停滞

狩猟免許所持者の平均年齢は60代後半に達し、若手・新規参入者の確保が急務となっているが、既存の委託構造は大きく変化していない。

随意契約という慣行の固定化

鳥獣被害対策事業の多くは、地元猟友会との随意契約という形で発注されてきた。 これは、地域の地理・生態に精通した実務者との円滑な連携という観点からは合理的な面もあるが、同時に、新規団体・若手ハンターグループが対等な立場で競争入札に参加する機会を、事実上閉ざしてきた側面がある。

鳥獣被害対策実施隊の制度化は、猟友会会員の活動に一定の公的な位置づけを与えるという点で重要な進展だったが、同時に、実施隊員としての資格認定・活動範囲の決定プロセスにおいても、既存の地域猟友会組織が強い発言力を持ち続ける結果となった。 新しい制度を作っても、その運用が既存組織に委ねられる限り、実質的な構造転換にはつながりにくいという教訓は、本サイトが他の分野でも繰り返し確認してきたパターンである。

高齢化する担い手と新規参入の壁

狩猟免許所持者数は長期的な減少傾向にあり、その年齢構成も高齢化が著しい。 多くの地域猟友会において、実際に鳥獣被害対策の第一線で活動する会員の平均年齢は60代後半から70代に達しており、今後10年程度で、担い手不足がさらに深刻化することが確実視されている。

この危機的な状況にもかかわらず、若手ハンター・女性ハンター・新規参入希望者が、既存の猟友会の枠組みの中で活動を始めようとしても、地域社会特有の人間関係、既存会員との調整、そして委託事業への参加資格をめぐる不透明な基準といった、さまざまな壁に直面するケースが報告されている。 近年、既存の猟友会とは別に、若手を中心とした独立系のハンターグループが各地で結成される動きも見られるが、こうした新しい団体が、自治体の委託事業に正式に参画するプロセスは、必ずしも整備されていない。

この構造が特に深刻なのは、鳥獣被害対策という業務が、単なる狩猟免許の保有だけでなく、地域の地理・獣道・作物被害パターンに関する経験的な知識を要する、参入障壁の高い専門性を持つ点である。 新規参入者がこうした知識を独力で蓄積するには時間がかかり、その間、既存の会員から実践的な指導を受けられるかどうかが、定着の成否を大きく左右する。 しかし、既存会員にとって、自らの委託事業における立場を脅かしかねない新規参入者を、積極的に育成するインセンティブは必ずしも強くなく、この「知識の継承」という側面においても、構造的な参入障壁が存在していると言える。

制度・慣行 目的(建前) 実質的な効果
猟友会との随意契約 地域の実情に精通した実務者との連携 新規団体の競争参加機会の欠如
実施隊員への地域慣行 円滑な地域連携の確保 既存会員以外の参入への高い壁
担い手の高齢化 なし(構造的な課題) 被害対策の持続可能性への懸念
ジビエ利活用の規制 食肉衛生の確保 新規事業者の参入コストの高さ

ジビエ利活用と新規参入者の可能性

近年、捕獲した鹿・イノシシの肉を「ジビエ」として食肉利用する取り組みが、地方創生・新産業育成の文脈で注目を集めている。 この分野は、従来の猟友会という枠組みにとらわれない、新しいビジネスモデル・若手起業家の参入余地を持つ有望な領域である。

しかし、食品衛生法に基づく食肉処理施設の設置基準、そして捕獲から搬入までの時間的制約といった要因が、新規事業者にとって決して低くないハードルとなっている。 本来であれば、鳥獣被害対策とジビエ利活用を一体的に推進することで、若手の新規参入を促す好機となり得るはずだが、既存の委託構造・規制環境が、この可能性を十分に引き出せていないのが実情である。

ジビエの品質・安全性を確保するためには、捕獲後速やかに専用の処理施設に搬入する必要があるが、施設の数自体が限られている地域が多く、せっかく捕獲した個体の多くが、食肉として活用されずに廃棄されているのが実情である。 この「もったいない」構造を解消するためには、移動式解体処理車の活用、簡易な処理施設の規制緩和など、新規事業者が参入しやすい制度設計への転換が求められる。 鳥獣被害対策を「コスト」としてのみ捉えるのではなく、ジビエ産業という新たな収益機会と結びつけることで、若手の参入インセンティブを高めることができるはずである。

図1:狩猟免許所持者の年齢構成の推移(概念値)——高齢化が急速に進行

1963年
鳥獣保護法制定——狩猟免許制度の出発点
60代後半
猟友会実働会員の平均年齢——深刻な高齢化
随意契約偏重
自治体の被害対策委託——競争入札の乏しさ
ジビエ市場
新規参入の可能性を持つが規制・慣行が壁に

海外の野生動物管理システムとの比較

米国・欧州諸国では、野生動物の個体数管理を、州・地方政府が専門の野生動物管理官・民間の有害鳥獣駆除業者との契約を通じて実施する仕組みが広く普及している。 これらの契約は、多くの場合、公開された入札プロセスを経て決定され、特定の団体・組織による長期的な独占を防ぐ制度設計が取られている。

さらに、ニュージーランドなど一部の国では、野生動物管理を専門とする民間企業が、高度な技術(ヘリコプターを用いた広域捕獲等)を活用しながら、効率的な個体数管理サービスを提供する市場が形成されている。 日本の鳥獣被害対策も、こうした専門化・産業化の方向性を取り入れることで、担い手不足という構造的な課題への対応力を高められる可能性がある。

米国の一部の州では、鳥獣被害対策の専門資格を持つ民間業者が、農家と直接契約を結び、成果報酬型(捕獲頭数に応じた対価支払い等)のサービスを提供する市場が発達している。 こうした成果報酬型の契約形態は、担い手の側に、より効率的かつ効果的な捕獲手法を追求するインセンティブを生み出す。 日本の随意契約中心の委託構造は、多くの場合、定額の業務委託料という形を取っており、成果と報酬が必ずしも連動していない点も、改善の余地がある論点である。

💬 「猟友会以外に鳥獣被害対策を担える組織はない」
地域の実情に精通した猟友会以外に、鳥獣被害対策を効果的に担える組織は存在しないという主張がある。
✓ 真実:専門化された新しい担い手の育成は十分に可能である
地域猟友会が長年蓄積してきた知見・経験の価値は否定できない。 しかし、若手ハンター・専門の野生動物管理事業者を、既存の枠組みに組み込む形で育成することは、十分に可能である。 海外の専門化された野生動物管理産業の事例は、担い手の多様化・専門化が、被害対策の実効性を高める道筋になりうることを示している。 「猟友会にしかできない」という思い込みこそが、この分野の構造改革を妨げてきた最大の障害である。

鳥獣被害対策改革のロードマップ

改革① 委託事業への競争入札導入
随意契約に偏重した発注方式を見直し、新規団体・若手ハンターグループも参加できる競争入札を拡大する。
改革② 若手・女性ハンターの育成支援
狩猟免許取得への補助、研修プログラムの充実を通じて、新規参入の裾野を広げる。
改革③ ジビエ利活用の規制緩和
食肉処理施設の設置基準を実態に即して見直し、新規事業者の参入コストを下げる。
改革④ 野生動物管理の専門産業化
技術を活用した効率的な捕獲サービスを提供する専門事業者の育成・参入を促進する。

結論——高齢化する既得権益構造に未来はない

猟友会という組織が、長年にわたり日本の野生動物管理に果たしてきた貢献は、正当に評価されるべきである。 しかし、担い手の高齢化が加速する中、既存の随意契約中心の委託構造にしがみつくことは、鳥獣被害対策そのものの持続可能性を危うくするリスクをはらんでいる。

本サイトが一貫して主張してきたように、既得権益的な構造を温存することは、短期的な安定をもたらすように見えても、長期的には担い手不足という形で自らの首を絞める結果を招く。 競争入札の導入、若手・専門事業者の育成、ジビエ産業の規制緩和を通じて、鳥獣被害対策の担い手を多様化・専門化させることこそが、この分野の持続可能性を確保する唯一の道である。

気候変動・生息域の変化により、鳥獣被害は今後さらに広域化・深刻化していくことが予想される。 この課題に対応するためには、従来の地域猟友会というボランティア的な組織モデルだけに依存するのではなく、テクノロジー(ドローンによる個体数モニタリング、AIを活用した被害予測等)を活用した効率的な管理手法への転換も、あわせて検討されるべきである。 規制緩和と技術革新を組み合わせることで、鳥獣被害対策という分野にも、新しい産業としての可能性を切り開くことができるはずである。

📌 担い手の多様化こそが被害対策の持続可能性を高める

委託事業への競争入札導入、若手・専門事業者の育成支援、ジビエ利活用の規制緩和を通じて、鳥獣被害対策の担い手を多様化させることが求められる。 既得権益構造への固執は、担い手不足という形で、対策そのものの実効性を蝕んでいく。

関連記事